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レントゲンで写らない膝の痛み③ 関節が緩むと痛くなる

2026.09.20 | Category: 変形性膝関節症,足について

 

前回②では、

筋肉や股関節周囲へ施術すると、膝裏の痛みが楽になった。

 

ところが、

 

膝関節に施術すると、反対に痛みが強くなった。

というところまでご紹介しました。

 

ここだけを見ると、

「やっぱり筋肉が原因だったのでは?」

と思うかもしれません。

 

しかし、もう少し身体の反応を確認してみると、今回の膝裏の痛みについて重要なヒントが見えてきました。

 

「ストレッチすると膝裏が痛い」なら筋肉が原因?

 

患者様は、

「ストレッチをすると膝裏が痛い」

とおっしゃっていました。

 

膝裏から太ももの外側にかけては、大腿二頭筋などの筋肉があります。

そのため、

「筋肉を伸ばして痛いのだから、筋肉が原因では?」

と考えたくなります。

 

そこで、条件を変えて同じ場所を伸ばしてみることにしました。

 

今度は上向きに寝てもらい、膝裏から太ももの後ろ側を伸ばしてみます。

すると、

 

痛くありません。

 

同じ膝裏を伸ばしているはずなのに、座って行うと痛く、寝た状態では痛くない。

なぜなのでしょうか。

 

違いは「膝に体重がかかっているかどうか」

二つのストレッチの違いの一つが、荷重のかかり方です。

 

座った状態で行っていたストレッチでは、姿勢や方法によって膝関節に圧が加わります。

一方、上向きに寝た状態では、膝への荷重を減らした状態で筋肉を伸ばすことができます。

つまり今回の場合、

「ストレッチをすると痛い」=「筋肉を伸ばしたから痛い」

とは限らないことになります。

 

筋肉を伸ばす動作に伴って膝関節へ加わっていた負荷が、痛みを引き起こしていた可能性が考えられました。

 

この違いは、今回の膝裏の痛みを考えるうえで大きなヒントになりました。

 

関節の動きが良くなったのに、なぜ痛みが強くなったのか?

 

もう一つ、前回の施術で気になった反応があります。

 

膝関節にモビライゼーションを行うと、関節そのものの動きは良くなりました。

ところが、その状態で踏み台を上ってもらうと、膝裏の痛みは逆に強くなりました。

 

普通に考えると、

「関節が動きやすくなったのだから、痛みも楽になるのでは?」

と思うかもしれません。

しかし、実際の身体では必ずしもそうなるとは限りません。

 

踏み台で見つかった「ニーイン・トゥーアウト」

 

踏み台を上る動きを確認すると、この患者様には特徴的な動作がみられました。

膝が内側へ入り、それに対して足部が外側を向くような動きです。

 

私たちの業界では、このような動きを「ニーイン・トゥーアウト」と表現します。

 

膝関節の動きが大きくなったとしても、身体の使い方そのものが変わっていなければ、その動きやすさが必ずしも良い方向へ使われるとは限りません。

 

今回の場合、

関節が動きやすくなったことで、もともとあったニーイン・トゥーアウトの動作まで大きく出てしまい、膝への負担が増えた可能性

を考えました。

 

「関節が硬い=悪い」

「柔らかくなれば良い」

と単純に考えることができない理由の一つです。

 

股関節の手術歴も膝の動きに関係していた可能性

 

さらに今回の患者様には、痛みのある右側の股関節の手術歴がありました。

実際に確認すると、股関節には動きにくさが残っていました。

股関節の動きや筋力が十分でなければ、階段や歩行などで膝がその動きを補うことがあります。

 

そのため今回は、

股関節の動きにくさや筋力低下 → 動作のエラー → 膝への負担増加

というつながりも考える必要がありました。

 

膝が痛いからといって、膝だけを見ればよいとは限りません。

 

今回、身体から得られた3つのヒント

 

① ストレッチすると痛い

一見すると筋肉の痛みに思えます。

しかし、荷重を減らした状態で同じ筋肉を伸ばすと痛くありませんでした。

そのため今回は、筋肉そのものを伸ばした痛みではなく、膝関節への負荷が関係していた可能性を考えました。

 

② 股関節の手術歴と動きにくさがある

右股関節の動きにくさや筋力低下によって、膝周囲の筋肉への負担が増えたり、ニーイン・トゥーアウトのような動作が生じやすくなった可能性があります。

 

③ 筋肉を押すと痛い

圧痛があるからといって、その場所が必ず痛みの原因とは限りません。

今回の場合は、ご自身でも気になる場所を頻繁に触っていたため、刺激を繰り返したことで局所が痛みに敏感になっていた可能性も考えました。

 

表面に見えている症状が、本当の原因とは限らない

 

少し違う分野の話になりますが、私は現在、分子栄養学についても学んでいます。

 

そこでよく出てくる考え方の一つに「マスク(隠蔽)」があります。

 

たとえばフェリチンは鉄の状態を考える際に使われる指標の一つですが、炎症など別の要因によって数値が変動することがあります。

そのため、一つの検査値だけを見て身体全体の状態を判断するのではなく、

「表面に出ている情報と、その裏側で起こっていることは本当に一致しているのか?」

と考えることが大切になります。

 

身体の痛みについても、私は同じように考えています。

 

「ストレッチすると痛いから、筋肉が原因」

「押して痛いから、そこが原因」

「レントゲンで大きな異常がないから、関節には問題がない」

 

身体は、そこまで単純ではありません。

 

インソール・シューズ・リハビリで動作そのものを改善

 

今回の患者様では、これまでに得られた情報から、膝だけに施術を続けるのではなく、ニーイン・トゥーアウトなどの動作を改善し、膝へ加わる負担そのものを変えていくことを考えました。

 

そのため、

・インソールによる足元からの調整
・身体に合ったシューズの選定
・股関節を含めたリハビリ
・階段などでの身体の使い方の改善

などを進めています。

 

現在まで4回のリハビリを行い、膝裏の痛みは徐々に軽減しています。

 

この経過からも、今回考えた身体の使い方や負荷へのアプローチは、改善につながる方向性の一つであると考えています。

 

身体は、ちゃんとヒントを出しています。

 

今回の症例では、

「膝裏が痛い」

という一つの症状から始まりました。

 

しかし、詳しく確認していくと、

膝関節に荷重すると痛いのか。

膝周囲の筋肉への施術ではどう変化するのか。

膝関節への施術ではどう変化するのか。

股関節や足の動きはどうなっているのか。

一つずつ条件を変えることで、身体から得られる情報も変わっていきました。

 

身体は、ちゃんとヒントを出しています。

 

そのヒントを一緒に読み解き、

「自分の身体は、こうすると痛む」

「こう動くと楽になる」

自分の身体について理解できるようになることで、身体との新たな信頼関係が生まれます。

 

そうした経験の積み重ねは、今ある痛みを改善するためだけでなく、これから自分の身体と付き合っていくうえでも、大きな財産になるのではないでしょうか。

変形性膝関節症?レントゲンで写らない膝の痛み②

2026.09.20 | Category: 変形性膝関節症,足について

 

前回の記事では、

「レントゲンでは大きな異常がないのに、膝裏が痛い」

という患者様についてご紹介しました。

 

膝裏には筋肉、腱、半月板、関節包、神経

などさまざまな組織があります。

 

そのため、「膝裏が痛い」という場所だけで原因を決めるのではなく、

どこに、どのような動きや負荷が加わった時に痛むのか

を細かく確認することが大切です。

 

今回は、実際に患者様の身体を確認しながら、膝裏の痛みについてさらに詳しく調べていきます。

 

今回の患者様|50代女性・右膝裏の痛み

 

今回の患者様は、兵庫県にお住まいの50代女性です。

 

当院へ来られる前に、大阪にある足を専門に診ている治療院へ相談されていました。

そちらの先生から、

「兵庫県にお住まいなら、KAIFUKU in 大で、足だけではなく身体全体を見てもらえますよ」

とご紹介いただき、当院へ来院されました。

 

主な症状は、右膝の裏側に出る痛みでした。

患者様は最初、膝の裏が痛いんですとお話しされていました。

 

しかし、実際に痛む場所を細かく確認してみると、膝の真後ろだけではありませんでした。

膝裏のやや外側から、太ももの方向へ約10cm上まで。

細長い範囲に痛みが広がっていました。

 

さらに、どのような時に痛みが出るのか確認すると、

  • 階段を上る時
  • ストレッチで膝裏を伸ばした時
  • 膝裏から太ももの外側にかけての筋肉を押した時

などで痛みが出ていました。

 

病院ではレントゲン検査を受けていましたが、膝の骨や関節には大きな異常は見つからず、痛み止めと湿布で経過を見ることになったそうです。

 

膝裏の外側には「大腿二頭筋」があります

 

膝裏の外側から太ももの後面には、大腿二頭筋という筋肉があります。

いわゆるハムストリングスを構成する筋肉の一つです。

 

今回の患者様が痛みを感じていた場所とも重なります。

 

さらに、

「ストレッチすると痛い」

「筋肉を押すと痛い」

という反応もありました。

ここまでを見ると、

「大腿二頭筋など、膝裏の筋肉が痛みの原因なのでは?」

と考えたくなります。

 

しかし、この段階ではまだ断定できません。

 

膝関節そのものへの負荷によって症状が出ている可能性も残っているからです。

 

過去の「右股関節の手術」も確認しました

 

今回、もう一つ気になったのが、患者様が以前に右股関節の手術を受けていたことです。

股関節の手術後には、その後の身体の使い方が変化したり、股関節周囲の動きが硬くなったりすることがあります。

 

股関節と膝は別々の関節ですが、歩行や階段動作では連動して働いています。

 

そのため、

股関節が十分に動かない分を、膝周囲の筋肉が補っている可能性はないか?

という視点でも確認する必要があります。

 

そこで今回は、右股関節の動きにくさと、硬くなっていた大腿二頭筋周囲に対して施術を行いました。

 

股関節と筋肉への施術後、階段での痛みが軽減

 

施術後、実際に痛みが出ていた踏み台をもう一度上っていただきました。

すると患者様から、

「あ、さっきよりかなり楽です!」

という反応がありました。

階段動作で感じていた膝裏の痛みが大きく減少しました。

 

ここまでなら、

「やはり股関節や大腿二頭筋が原因だった」

と考えたくなるところです。

 

しかし、ここで一つ注意が必要です。

 

「施術で楽になった」=「原因が確定した」ではありません

 

施術によって痛みが軽減したことは、身体の状態を考えるうえで重要な情報です。

 

ただし、

症状が一時的に変化したことと、痛みの原因を特定できたことは同じではありません。

 

慢性的な膝の痛みでは、筋肉、関節、動作など複数の要素が関係していることもあります。

 

そこで今度は、

「もし膝関節そのものが関係しているのであれば、膝関節へのアプローチではどのような反応が出るのか?」

という視点から確認してみることにしました。

 

膝関節へのモビライゼーションでは、反対に痛みが増加

 

次に行ったのが、膝関節の動きを引き出すための関節モビライゼーションです。

施術後、もう一度同じ動作で身体の反応を確認しました。

すると今度は、

 

膝裏の痛みが施術前より強くなりました。

 

筋肉や股関節周囲へアプローチすると、痛みは軽減した。

一方で、膝関節へアプローチすると、痛みは増加した。

この二つの反応は、今回の膝裏の痛みを考えるうえで重要なヒントになります。

 

痛みの原因を最初から一つに決めない

 

「筋肉を施術したら楽になったから、筋肉が原因」

「関節への施術で痛くなったから、関節が悪い」

どちらも、その時点ではまだ仮説です。

 

大切なのは、最初に考えた原因に身体を当てはめるのではなく、

同じ動作を繰り返し確認しながら、身体の反応を比較していくこと。

 

今回の場合、

筋肉への施術では痛みが軽減した。

関節への施術では痛みが増加した。

という異なる反応が得られました。

 

では、この違いは何を意味しているのでしょうか。

 

次回はさらに条件を変えて比較しながら、右膝裏の痛みがどこから生じている可能性が高いのかを絞り込んでいきます。

 

「レントゲンでわからない膝裏の痛み③」へ続きます。

レントゲンで異常なしと言われた膝裏の痛み①

2026.09.20 | Category: 変形性膝関節症,足について

 

「膝の裏が痛くて病院へ行ったけれど、レントゲンでは特に異常がないと言われた」

 

このような経験をされた方は、少なくありません。

大きな骨折や骨の変形などがないかを確認するうえで、レントゲン検査はとても大切です。

一方で、

「異常はありませんと言われても、実際に膝は痛い」

という方もいらっしゃいます。

 

今回ご紹介する患者様も、膝裏の痛みを抱えていました。

 

特に気になっていたのが、

「階段を降りる時に膝が痛む」

という症状です。

 

このような場合、私たちはレントゲンの結果だけではなく、

「どこが痛いのか」だけでなく、「何をした時に、どのように痛むのか」

を細かく確認していきます。

 

膝裏が痛む原因は一つではありません

一言で「膝裏の痛み」といっても、原因は同じとは限りません。

膝の外側や後方には、

  • 半月板
  • 関節軟骨
  • 関節包
  • 筋肉
  • 腱
  • 靱帯
  • 神経

など、さまざまな組織があります。

 

そのため、

「膝の裏が痛いから、ここが原因」

と痛む場所だけから単純に判断することはできません。

特に慢性的な膝の痛みでは、痛む場所と実際に負担がかかっている組織を分けて考えることが重要になる場合があります。

 

「いつ痛むのか」が大切なヒントになります

 

身体が教えてくれる情報は、「膝の後ろが痛い」ということだけではありません。

たとえば、

「体重をかけた時だけ痛む」

「筋肉を伸ばした時にはそれほど痛くない」

「膝が押し込まれるような動きで痛む」

「階段を降りる時に痛む」

など、動作によって症状が変化することがあります。

 

こうした違いは、膝のどの組織に、どのような負担がかかっているのかを考えるためのヒントになります。

 

レントゲンでわかることと、動作からわかることは違います

 

レントゲン検査では、骨折や骨の変形、関節の隙間など、骨を中心とした状態を確認できます。

これは非常に重要な情報です。

ただし、膝の痛みを考えるための情報はそれだけではありません。

 

たとえば、

  • 膝を曲げ伸ばしした時
  • 膝を捻った時
  • 筋肉をストレッチした時
  • 片脚に体重をかけた時
  • 歩いた時
  • 階段を降りた時
  • 朝、ベッドから起き上がった時

それぞれで症状がどう変わるのかを確認すると、レントゲンとはまた違った情報が得られます。

 

つまり、

 

画像検査と身体の動きは、それぞれ違う情報を教えてくれている

ということです。

 

「痛い」を細かく翻訳していく

 

患者様が感じている「痛い」という感覚は、とても大切です。

ただ、「膝が痛い」という言葉だけでは、まだ情報が大きすぎます。

そこで私たちは、

 

「荷重した時はどうですか?」

「伸ばした時はどうですか?」

「押し込まれた時は?」

「階段を上る時と降りる時では違いますか?」

 

と、一つずつ条件を変えながら確認していきます。

そうすることで、

 

「膝が痛い」という大きな情報を、身体が出している小さなヒントに分解していく。

私はこの作業を、身体の言葉を「翻訳する」ようなものだと考えています。

 

レントゲンで異常がなくても、身体にはヒントがあります

「レントゲンでは大きな異常はありません」

これは大切な検査結果です。

しかし、それだけで「痛みの原因がない」という意味になるわけではありません。

 

どの動きで痛むのか。

どのような力が加わると痛むのか。

体重をかけるとどうなるのか。

歩き方はどうなっているのか。

 

こうした身体から得られる情報を一つずつ確認することで、痛みの背景が少しずつ見えてくることがあります。

 

今回の患者様についても、こうした確認を進めていくことで、膝裏の痛みについてさらに重要なヒントが見えてきました。

 

次回は、実際にどのような検査を行い、膝裏の痛みの原因をどのように絞り込んでいったのかをご紹介します。

 

②へ続きます。

若い人と高齢者の側弯症の違い|70代の側弯症に対する治療と歩行改善

2026.09.05 | Category: 側弯症について,治療について

側弯症の治療を考えるとき、年齢はとても重要です。

10代の成長期にみられる側弯症と、70代になって長年の側弯がある身体では、同じ「側弯症」であっても、治療で目指すところは少し違ってきます。

今回ご紹介するのは、胸椎が右凸、腰椎が左凸となる強い側弯症がある70代の患者様です。

当初、一番困っていたのは腰痛でした。

椅子から立ち上がるときや動き始めに鋭い腰痛がありましたが、身体の状態に合わせた施術や運動を続けることで、強い腰痛は徐々に軽減していきました。

ところが、腰痛が落ち着いてくると、今度は別の問題が見えてきました。

右膝の痛みと、左足の小指球にできた胼胝の痛みです。

ここから、「側弯症の身体をどこまで変えるべきなのか」という問題を考えることになりました。

高齢者の側弯症では「真っすぐにする」ことだけが目標ではない

この患者様は、歩行すると身体が大きく左側へ移動します。

背景には、強い側弯によって腰椎が左へ偏位していることがあります。

さらに歩行を確認すると、右股関節で身体を十分に支えにくく、骨盤・股関節が横方向へ移動し、そのバランスを取るように上半身が左へ移動しているように見えました。

ここだけを見ると、

「右のお尻を鍛えて、右脚でしっかり支えられるようにすればいいのでは?」

と思われるかもしれません。

確かに、臀部や股関節周囲の筋力は歩行にとって重要です。

しかし、この方の場合は、それだけではありません。

70年以上、その骨格で身体を支えてきています。

現在の歩き方も、単純な筋力低下だけで生まれたものではなく、側弯した脊柱や骨盤、股関節の位置関係の中で、身体が長い時間をかけてつくってきたものと考えています。

だからこそ、

「変えられること」と「変えた方がいいこと」は、少し違います。

10代と70代では側弯症の治療目標が違う

10代の成長期にみられる側弯症では、今後の骨格の成長を考えながら、側弯の進行リスクを評価し、必要に応じて経過観察や装具療法、専門的な治療を検討していきます。

つまり、**「これから成長していく身体をどう守るのか」**という視点が非常に重要になります。

一方、70代では事情が変わります。

長い年月をかけて現在の骨格や動き方が形成されているため、「できるだけ真っすぐにする」ことだけが、その方にとって最善とは限りません。

身体のバランスを大きく変えることで、それまで負担の少なかった腰、股関節、膝などに新しい負担が生じる可能性も考える必要があります。

特に、変形性膝関節症や変形性股関節症などを併発している場合には、側弯症だけを見るのではなく、身体全体の状態から治療方法を考えることが大切です。

側弯症による歩行の左右差と右膝の痛み

今回の患者様では、身体が左へ移動しやすく、左脚へ荷重する傾向があります。

一方で右膝には痛みがあります。

ここで単純に、

「左右均等に体重を乗せましょう」

と歩行指導してしまうと、右膝への負担が増える可能性もあります。

一見すると左右差のある歩き方でも、身体が痛い関節を守るために選択している動きである可能性があります。

そのため当院では、歩行改善=左右均等に歩くこととは考えていません。

大切なのは、

「なぜ、この方はこの歩き方になっているのか」

を確認することです。

左足の痛みを改善して、身体を支えやすくする

ただし、左脚へ荷重することにも問題がありました。

左足の小指が捻じれるように横を向き、いわゆる「寝指」の状態となり、小指球には胼胝ができています。

そこに痛みがあるため、左脚で身体を支えようとしても、足そのものが負担に耐えにくくなっています。

そこで今回は、身体そのものを大きく変える前に、インソールを使って左足を支えやすい環境にすることを優先しました。

インソールで足裏の荷重を調整

今回は、左足に対して大きさの異なる2種類のインソールパーツを使用しました。

数か月使用していただいたところ、大きいパーツでは左小指球の痛みが軽減。

小さいパーツでも普段より楽になるものの、痛みが残りました。

そのため、大きいパーツを第一選択としています。

同時に、もう一つ試している方法があります。

小さいパーツに、左踵外側をわずかに持ち上げる外側ヒールウェッジを組み合わせる方法です。

足元から荷重位置を調整し、左小指球へ集中している負担を変えながら、身体全体の歩き方がどう変化するのかを確認しています。

右膝を守るために左脚へ荷重する。

しかし、左脚に負担をかけすぎれば、今度は左足や左膝に問題が生じる可能性があります。

だからこそ、一か所だけではなく、腰・股関節・膝・足、そして歩行まで含めて評価することが重要になります。

高齢者の側弯症ではインソールやシューズに頼ることも選択肢

今回の治療では、

① 左足をインソールで支えやすくする
② インソールの調整によって荷重位置を変えてみる
③ 身体の反応を確認しながら右臀部・右股関節のトレーニングを行う

という順番で考えています。

もちろん、筋力トレーニングが必要ないという意味ではありません。

しかし、70代の強い側弯症に対して、身体そのものにすべてを任せる必要もないと私は考えています。

インソールに助けてもらう。

シューズに助けてもらう。

必要なところはトレーニングする。

身体に頑張ってもらうところと、道具に助けてもらうところを分ける。

これも高齢者の歩行改善では大切な考え方です。

側弯症の身体は、どこまで変えるべきなのか

「痛みは取れますか?」

「どうすれば治りますか?」

患者様が知りたいのは、やはり明確な答えだと思います。

成長期の側弯症では、将来の進行リスクを考えながら治療方針を立てていきます。

一方、長年その身体で生活してきた高齢者では、身体をどこまで変えることが、その人にとって本当に良いのかまで考える必要があります。

無理に理想的な姿勢へ近づけるのではなく、今ある身体をできるだけ生かしながら、痛みや負担を減らし、歩きやすい状態をつくっていく。

施術、運動療法、歩行改善・歩行指導、シューズ、インソール。

一つの方法だけで答えを決めるのではなく、いくつかの選択肢を試しながら身体の反応を確認していく。

若い身体には若い身体の治療があり、年齢を重ねた身体には、その身体に合った治療があります。

今回の患者様もまだ治療途中です。

身体の反応を確認しながら、その方にとって無理のない「ちょうどいいところ」を一緒に探していきたいと思っています。