若い人と高齢者の側弯症の違い|70代の側弯症に対する治療と歩行改善
側弯症の治療を考えるとき、年齢はとても重要です。
10代の成長期にみられる側弯症と、70代になって長年の側弯がある身体では、同じ「側弯症」であっても、治療で目指すところは少し違ってきます。
今回ご紹介するのは、胸椎が右凸、腰椎が左凸となる強い側弯症がある70代の患者様です。
当初、一番困っていたのは腰痛でした。
椅子から立ち上がるときや動き始めに鋭い腰痛がありましたが、身体の状態に合わせた施術や運動を続けることで、強い腰痛は徐々に軽減していきました。
ところが、腰痛が落ち着いてくると、今度は別の問題が見えてきました。
右膝の痛みと、左足の小指球にできた胼胝の痛みです。
ここから、「側弯症の身体をどこまで変えるべきなのか」という問題を考えることになりました。
高齢者の側弯症では「真っすぐにする」ことだけが目標ではない
この患者様は、歩行すると身体が大きく左側へ移動します。
背景には、強い側弯によって腰椎が左へ偏位していることがあります。
さらに歩行を確認すると、右股関節で身体を十分に支えにくく、骨盤・股関節が横方向へ移動し、そのバランスを取るように上半身が左へ移動しているように見えました。
ここだけを見ると、
「右のお尻を鍛えて、右脚でしっかり支えられるようにすればいいのでは?」
と思われるかもしれません。
確かに、臀部や股関節周囲の筋力は歩行にとって重要です。
しかし、この方の場合は、それだけではありません。
70年以上、その骨格で身体を支えてきています。
現在の歩き方も、単純な筋力低下だけで生まれたものではなく、側弯した脊柱や骨盤、股関節の位置関係の中で、身体が長い時間をかけてつくってきたものと考えています。
だからこそ、
「変えられること」と「変えた方がいいこと」は、少し違います。
10代と70代では側弯症の治療目標が違う
10代の成長期にみられる側弯症では、今後の骨格の成長を考えながら、側弯の進行リスクを評価し、必要に応じて経過観察や装具療法、専門的な治療を検討していきます。
つまり、**「これから成長していく身体をどう守るのか」**という視点が非常に重要になります。
一方、70代では事情が変わります。
長い年月をかけて現在の骨格や動き方が形成されているため、「できるだけ真っすぐにする」ことだけが、その方にとって最善とは限りません。
身体のバランスを大きく変えることで、それまで負担の少なかった腰、股関節、膝などに新しい負担が生じる可能性も考える必要があります。
特に、変形性膝関節症や変形性股関節症などを併発している場合には、側弯症だけを見るのではなく、身体全体の状態から治療方法を考えることが大切です。
側弯症による歩行の左右差と右膝の痛み
今回の患者様では、身体が左へ移動しやすく、左脚へ荷重する傾向があります。
一方で右膝には痛みがあります。
ここで単純に、
「左右均等に体重を乗せましょう」
と歩行指導してしまうと、右膝への負担が増える可能性もあります。
一見すると左右差のある歩き方でも、身体が痛い関節を守るために選択している動きである可能性があります。
そのため当院では、歩行改善=左右均等に歩くこととは考えていません。
大切なのは、
「なぜ、この方はこの歩き方になっているのか」
を確認することです。
左足の痛みを改善して、身体を支えやすくする
ただし、左脚へ荷重することにも問題がありました。
左足の小指が捻じれるように横を向き、いわゆる「寝指」の状態となり、小指球には胼胝ができています。
そこに痛みがあるため、左脚で身体を支えようとしても、足そのものが負担に耐えにくくなっています。
そこで今回は、身体そのものを大きく変える前に、インソールを使って左足を支えやすい環境にすることを優先しました。
インソールで足裏の荷重を調整
今回は、左足に対して大きさの異なる2種類のインソールパーツを使用しました。
数か月使用していただいたところ、大きいパーツでは左小指球の痛みが軽減。
小さいパーツでも普段より楽になるものの、痛みが残りました。
そのため、大きいパーツを第一選択としています。
同時に、もう一つ試している方法があります。
小さいパーツに、左踵外側をわずかに持ち上げる外側ヒールウェッジを組み合わせる方法です。
足元から荷重位置を調整し、左小指球へ集中している負担を変えながら、身体全体の歩き方がどう変化するのかを確認しています。
右膝を守るために左脚へ荷重する。
しかし、左脚に負担をかけすぎれば、今度は左足や左膝に問題が生じる可能性があります。
だからこそ、一か所だけではなく、腰・股関節・膝・足、そして歩行まで含めて評価することが重要になります。
高齢者の側弯症ではインソールやシューズに頼ることも選択肢
今回の治療では、
① 左足をインソールで支えやすくする
② インソールの調整によって荷重位置を変えてみる
③ 身体の反応を確認しながら右臀部・右股関節のトレーニングを行う
という順番で考えています。
もちろん、筋力トレーニングが必要ないという意味ではありません。
しかし、70代の強い側弯症に対して、身体そのものにすべてを任せる必要もないと私は考えています。
インソールに助けてもらう。
シューズに助けてもらう。
必要なところはトレーニングする。
身体に頑張ってもらうところと、道具に助けてもらうところを分ける。
これも高齢者の歩行改善では大切な考え方です。
側弯症の身体は、どこまで変えるべきなのか
「痛みは取れますか?」
「どうすれば治りますか?」
患者様が知りたいのは、やはり明確な答えだと思います。
成長期の側弯症では、将来の進行リスクを考えながら治療方針を立てていきます。
一方、長年その身体で生活してきた高齢者では、身体をどこまで変えることが、その人にとって本当に良いのかまで考える必要があります。
無理に理想的な姿勢へ近づけるのではなく、今ある身体をできるだけ生かしながら、痛みや負担を減らし、歩きやすい状態をつくっていく。
施術、運動療法、歩行改善・歩行指導、シューズ、インソール。
一つの方法だけで答えを決めるのではなく、いくつかの選択肢を試しながら身体の反応を確認していく。
若い身体には若い身体の治療があり、年齢を重ねた身体には、その身体に合った治療があります。
今回の患者様もまだ治療途中です。
身体の反応を確認しながら、その方にとって無理のない「ちょうどいいところ」を一緒に探していきたいと思っています。




