「動きが悪い」は、悪でしょうか?
よく私は、患者様に対して
「○○の動きが悪いですね。○○のエクササイズをしましょう」
といった形でアドバイスをします。
基本的な考え方として、「動きの悪さ」を改善することは、痛みや不調の改善、健康維持において非常に有効です。可動域を広げることで筋肉や関節の負担を軽減できたり、血流やリンパの循環がよくなるなど、全身への良い影響が期待できます。
しかし一方で、「その動きの悪さは、必ずしも“直すべきもの”なのか?」という視点も同時に持つことが大切だと感じています。
整体師として現場に立ってきた中で、動きの悪さにも「すぐに改善すべきもの」と「一旦は許容していいもの」、「受け入れて他で代償すべきもの」があると実感しているからです。次にいくつかの例を挙げてみたいと思います。
柔軟性には“才能”や“限界”がある
以前、プロのキックボクサーの方を施術させていただいたことがありました。
その方は「股関節が硬く、キックが苦手。可動域を広げたい」とご相談くださいました。
確かにキック動作において股関節の柔軟性は重要です。
しかしその方の体を診てみると、股関節の骨格の形状や、筋肉の質そのものが非常に硬く、いわゆる「生まれつきの硬さ」とも言えるものでした。どれだけストレッチや施術をしても、可動域の変化は非常に限られており、「これ以上の柔軟性向上は難しい」と判断せざるを得ませんでした。
この経験から私は、「柔軟性にも持って生まれた“才能”や“限界”がある」ということを強く実感しています。
すべての人がヨガインストラクターのような柔らかさを目指す必要はありません。必要以上に柔らかさを追い求めることが、逆に身体を壊すリスクにもなり得るのです。
「うつ状態」で動きが悪い時に、無理は禁物
心の状態も、身体の動きに大きく関係しています。
うつ症状のある方は、気持ちだけでなく、身体の反応そのものが鈍く、重くなってしまうことがあります。筋力や柔軟性の問題ではなく、神経やホルモンの状態によって「動けない」「動きたくない」と感じてしまうのです。
このような状態で無理に体を動かそうとすると、かえって心の負担が増してしまい、逆効果になることもあります。
「動けない時期」は、心と体が「一度休みたい」とサインを出しているとも言えます。
そのサインを無視して、「とにかく動かそう」「改善させよう」とすると、かえって悪化してしまう可能性があるのです。
整体では、体の状態を見ると同時に、最も効率的に身体が回復するプロセスを見極める必要があります。
組織の線維化によって、動きが制限されているケース
身体を長年酷使してきた場合や、同じ動作を繰り返し続けた場合、筋肉や腱、関節まわりの組織が「線維化」してしまうことがあります。
これは、コラーゲン繊維が過剰に蓄積され、組織がゴワゴワと硬くなる現象で、一種の“老化”とも言えます。
このような場合、無理に伸ばしたり動かそうとすると、さらに線維化が進んで逆効果になることがあります。
また、炎症を引き起こして痛みが強くなることもあります。
「動かせば動くほど良くなる」という考えが通用しないパターンもあり、段階的にアプローチしていく必要があります。
筋膜リリースや血流改善など、間接的なアプローチから始めることも大切です。
内臓疾患や自己免疫疾患による影響
内臓の不調は、見た目にはわかりづらいですが、筋肉や関節の状態に影響を与えることがあります。
たとえば、腎臓や肝臓が弱っていると、腰まわりや背中に硬さや痛みとして現れることがあります。
また、自己免疫疾患(例:関節リウマチ、膠原病など)によって、関節や神経そのものが炎症を起こしているケースでは、そもそも「動かせば改善する」というフェーズではないこともあります。
このような背景を持つ場合、病気の背景をしっかりと分析し、根本的な問題にアプローチすることでしか、回復させることができません。
「動きの悪さ」は許容すべき時期・状態もある
「動きが悪い=すぐに直さなければいけない」というわけではありません。
むしろ、「身体の動きにくさ=身体が動きを嫌がっている」と考え、嫌がる理由を取り除いてあげると、自然と痛みや不調から解放され、気が付けば動くようになっていたということがよくあります。
「動かせば改善する」という発想の前に、「その動きの悪さには、どんな背景があるのか?」をしっかり見極めること。
これが、身体を良くしていくために最も大切な考え方だと思っています。